

「エスニック・グループ」という言葉がある。これは歴史学でよく使われている言葉で一般的には「民族」と訳されている。一口に日本人といっても所謂大和民族や琉球民族、アイヌ民族や在日コリアンや中国人から帰化した人など、様々なエスニック・グループで構成されていて、台湾人も同様の事がみられる。但し台湾に於いてエスニックや民族という言葉を使用すると若干語弊が生じるので、ここでは単にグループという言葉を使用したい。

さて現在、台湾人は主に5つのグループで形成されている。ここで主要になっているのはウチ4つのグループなんだけど、取り合えず結論として先に5つのグループを紹介しよう。
台湾人を構成する5つのグループ
①原住民
②客家人
③本省人
④外省人
⑤新住民
そして5つのグループが全人口に占める割合は以下の通りだ。
各グループが占める割合
原住民……2%
客家人……12%
本省人……73%
外省人……13%
新住民……3%

実は今回、いくつかの行政機関から資料を集めたのだが、調査時期がまちまちな事に加え、以前の調査の際には新住民が対象外だった等の理由から、きれいな数字には収まらなかった。ただなんとなく、これぐらいの割合なんだと分かってもらえればいいと思う。
新住民とは?
台湾人と結婚し台湾国籍を取得した人を新住民と呼ぶ。もっとも多かった出身地は中国で、二番目がベトナムだ。この新住民に関しては次回から始まる台湾史入門とは直接関係して来ないが、いつか別の機会に取り上げたいと思う。
各グループの特徴
原住民
漢人たちが台湾に渡航してくる前から定住していた人たちで民俗学的にはオーストロネシア系諸族と言われている。
オーストロネシア系諸族とは?
西はアフリカの隣にあるマダガスカル島から東はモアイ像で有名なイースター島まで広く分布する語族。言語学的には台湾の原住民族が一番古く、かの有名なジャレド・ダイアモンドの著書『銃・病原菌・鉄』では「台湾原住民族こそがオーストロネシア人の源流」と書かれていた。



この原住民だが、使用言語や風習などで更に多くのグループに分けられる。2020年現在、政府公認だけで16グループ、地方自治体公認のものが3グループ、まだ公認されていないグループが23と、合計で42グループに分かれているのだが、大きく分けると以下の2つのグループに分けられる。
ポイント
1 高山族
2 平埔族
因みにこの「高山族」はその昔「藩人」や「蛮族」という蔑称で呼ばれていたが、昭和天皇が台湾を訪れた際に『うちの国民を蛮族扱いするな!』と一喝し「高砂族」に改められた経緯がある。その後、高砂族から高山族に再度改められ現在に至る。因みに日本語では先住民という言葉が使われているが、中国語の「先住民」には嘗て存在していた人(つまり今は消滅した)という意味があることから、台湾では「原住民」もしくは「原住民族」という呼称が用いられている。

さて原住民を2つのグループに分けたわけだが、特徴としては以下の通りである。
高山族…山に住んでいる(一部例外あり)
平埔族…平地に住んでいる
そしてこの平埔族だが現在では殆どその姿を見ることは出来ない。一方で高山族は今でもその独特の風習を残している。これは前回ご紹介した地理が深く関係してくるのだが、それはまた別の機会に。

原住民のポイント
✅元々台湾に住んでいた人々
✅全てのオーストロネシア語族の源流?
✅言語は各部族によって違う
✅高山族と平埔族に分けられるが後者は同化が進み今は存在の危機に
客家人
中国古代王朝にルーツを持つグループ。「東洋のユダヤ人」とも言われていて“台湾民主化の父”李登輝氏や“シンガポール建国の父”リー・クアンユー氏、そして中国を発展させた“最高指導者”鄧小平氏も客家人だ。


台湾の客家人は主に広東から渡ってきた人たちで広義には漢人に分類される。客家語という言語を使用し独特の文化風習を持つ人たちだ。また質素を好むとされ、派手な本省人(後述)の廟に比べ、客家人の祀る廟は質素なのも特徴だ。



他の特徴として客家人は主に山間部に住んでいる。それと台湾国内の客家語だけでも5種類存在しているが、ここでは全て統一して客家語と呼ばせていただく。
客家人のポイント
✅中国古代王朝にルーツを持つグループ
✅東洋のユダヤ人
✅言語は客家語
✅質素を好む
本省人
福佬人(ホーロー人)や閩南人(びんなん人)とも呼ばれる人たちで、主に福建や広東から台湾へと渡ってきた漢人で台湾人を構成するグループの中では最大の人口を有する。使用言語は台湾語で閩南語とも呼ばれている。渡航時期は約400年前から1945年まで。


本省人のポイント
✅最大のグループ
✅広東や広州から渡ってきた漢人
✅言語は台湾語
✅1945年以前に渡ってきた
外省人
この「外省人」というのは前述の本省人の対義語として使われた名称で、1945年以降に中国の各地から渡ってきた漢人を指す。使用言語は中国語。つまり現在の台湾の公用語である中国語は、このグループの人たちがもたらした言語なのだ。


外省人のポイント
✅中国各地から渡ってきた漢人
✅1945年以降に渡ってきた
✅言語は中国語
まとめ
さて、ここまで5つのグループについて紹介してきた。いよいよ次回からは台湾の歴史について追っていくが、その前に強調しておきたいのは、今はこの全てのグループで「台湾人」を構成しているという点だ。そして前回の記事でもお話したとおり、台湾の歴史を知るにはゴール、つまり台湾の今を知った上の方がより効率よく、そして楽しく学べる。台湾の今を知るためのポイントを以下にまとめたので参照してほしい。
台湾の今を知る為のポイント
✅台湾は東南アジア、中国、日本の間に位置する
✅3000m級の山脈が横断している
✅もともとは今の原住民と呼ばれる人たちが住んでいた。
✅その後、本省人、客家人、外省人と呼ばれる漢人たちが渡ってきた
✅現在の公用語は中国語
それと幾つかの謎が出てきたが、これも回を追って紹介していくのでご心配なく!
台湾史の謎
●消えた平埔族
●1945年とは?
●なぜ公用語は台湾語でなく中国語なのか?
